レーザーの応用

歴史と仕組み

レーザーが初めて製造されたのは、1960年のことです。以来、レーザーは様々な科学分野や産業で応用されてきました。例えば、バーコード、LiDAR、光ピンセット、レーザーカッター、レーザー冷却、超高速写真などの技術が挙げられます。レーザーとはそもそもどのような原理で作られているのでしょうか。まずは基本的な仕組みをみてみましょう。 

レーザー(LASER)とは、英語でLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationの略語で、電磁波の誘導放出によって光の放射を増幅させることを意味します。レーザー光は、狭い帯域幅(周波数の範囲)の光のビームを人為的に作ったものです。このためには、中にガスなどが入っていて、両端に鏡が設置されている容器が使われます。容器の中に光を放射すると、鏡に反射することで容器内を往復し、定常波が形成されます。中に入ったガスを通る度に、電磁波の誘導放出が起こり、光が増幅していきます。レーザー開発当初は、ヘリウムとネオンの混合気体が使われていました。ここで、もし両方の鏡が光を完全に反射するものであれば、増幅された光は容器の中で往復するに留まります。一方、鏡の一つを、一部の光を透過するものにすると、下図のように、増幅された光の一部が容器の外に放出されます。このような鏡をビームスプリッターと呼び、外に放出された光がレーザー光となります。

レーザー光

それでは、現在の応用例をいくつか見ていきましょう。本記事では、LiDAR、光ピンセット、レーザー冷却の3つの技術を取り上げます。

LiDAR

LiDARとは、英語でLight Detection and Rangingの略語で、光によって物体を検知したり距離を測ったりする技術を指します。レーザー光を照射し、その散乱や反射までの時間を計測することで、周りの物体への距離を正確に測ることができます。この技術は、高解像度の地図・視野の作成に使われています。 どのような分野で活躍するのでしょうか。 大気物理学では、大気中の元素の存在比の計測などに使うことができ、これによって気温なども算出できます。 地質学・地震学では、GPS技術と合わせて、地殻運動の計測を行うことで、地震の予測精度の向上に役立っています。 海洋学では、海面付近のバイオマス(生物の量を数値化したもの)の計測に使われます。 他にも、近年では自動運転技術にも応用されており、周辺の情報を正確に計測するために使われています。

光ピンセット

光ピンセットとは、レーザー光を用いて粒子をトラップ(捕捉)し動かすことのできる装置のことです。例えば、ウイルス、バクテリア、細胞、DNAの一部などをトラップすることができ、生物学・医療分野での応用が期待されています。実際、光ピンセットと生物システムへの応用は、2018年のノーベル物理学賞にも選出された技術です。 

レーザー冷却

レーザーは物体を温めるためによく使われますが、ドップラー効果という現象を利用して物体を冷やすこともできます。 

小さな粒子がある速度で動いている状況を考えてみましょう。物質はそれぞれ、決められた帯域幅の光を吸収する性質を持ちます。このとき、吸収される光よりも少し波長の長いレーザー光を、粒子の進行方向から照射します。粒子がレーザー光に向かって動いているとき、粒子にとっては、レーザー光の波長は実際よりも短く感じます(これがドップラー効果です)。これにより、粒子は、レーザー光を吸収することになり、減速します。下図のようにx軸、y軸、z軸上の6方向からレーザー光を照射することで、粒子の全方位の速度を落とすことができます。

レーザー冷却

粒子を温めると速度が上昇するように、速度を落とすことで粒子の温度は下がります。窒素原子などでは、絶対零度に限りなく近い低温状態を作ることに成功しています。 レーザー冷却を磁石と合わせて利用することで、より低い温度を実現することも可能です。超低温状態では、多くの粒子が一つの量子力学的な状況に集まり、波のように整然と動く状態を作り出すこともでき、この状態をボースアインシュタイン凝縮と呼びます。2001年のノーベル物理学賞も、このボースアインシュタイン凝縮の実現に対して授与されました。 

他にも、低温状態は超伝導や超流動状態の実現に必要なので、レーザー冷却は重要な技術となっています。

[1] “An introduction to optical tweezers”. Block Lab at Stanford University. https://blocklab.stanford.edu/optical_tweezers.html. Last Accessed: 2020/02/21. 

[2] Takahashi, Yoshiro. (2008). “Laser Cooling Techniques and Its Application”. https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/37-07-sougouhoukoku.pdf. Last Accessed: 2020/02/21. 

[3] Sixty Symbols. (2018). “Optical Tweezers and the 2018 Nobel Prize in Physics – Sixty Symbols”. https://www.youtube.com/watch?v=XjXLJMUrNBo. Last Accessed: 2020/02/21. 

[4] Schweber, Bill. (2019). “What… Use Lasers and LEDs for Cooling?”. Electronics cooling. https://www.electronics-cooling.com/2019/05/whatuse-lasers-and-leds-for-cooling/. Last Accessed: 2020/02/21. 

[5] Loeffler, John. (2018). “11 Incredible Uses of Laser Technology”. Interesting Engineering. https://interestingengineering.com/11-incredible-uses-of-laser-technology. Last Accessed: 2020/02/21. 

[6] Starr, Michelle. (2018). “NASA Is About to Create The Coldest Temperature in The Universe, Using Lasers in Space”. Science Alert. https://www.sciencealert.com/coldest-spot-in-universe-nasa-iss-cold-atom-laboratory-bose-einstein-condensates. Last Accessed: 2020/02/21. 

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